【流山市医師会 市民公開講座】
2013.09.22
困難な時代をどう生きるか ~健康で長生きの秘訣~
諏訪中央病院名誉院長 鎌田 實 氏
はじめに
当日は、秋の行楽日和の連休だったにもかかわらず、800人収容の流山市文化会館のホールは参加者で溢れ、ロビーに設置されたモニターでの視聴者が出るほどの盛況ぶりで、開場を30分も早めたものの、予定の開場時間には既に空席がないほどであった。
井崎流山市長、大津医師会長の挨拶の後、手話通訳、要約筆記方のご協力も得ながら鎌田氏の講演が始まった。
鎌田氏は、檀上を精力的に歩きながらユーモアを交えおだやかな口調で語り始め、あっという間に参加者の心を鷲掴みにした。東京医科歯科大学を卒業後、長野県茅野市の倒産しかけた諏訪中央病院に身を投じ、住民と共に築いてきた医療実践を振り返り、食生活の改善(具だくさんの味噌汁など減塩運動)や意識改革(行動変容)を図った結果、脳卒中の死亡率を減少させ、現在の長寿日本一の長野県に至った活動が紹介された。
食生活と健康について
食生活が重要なことはわかっているのに、なぜ、生活習慣を変えられないのか、「行動変容」というのが大事で、長野県も、住民自身が行動変容をおこしたおかげで、日本一の健康県になった。
諸外国に比べて日本人が長寿である秘訣に、免疫力と関係する「腸」をよくする食物繊維(キノコ、野菜、海藻)やネバネバした食品(納豆、オクラ、モロヘイヤ、じゅんさい)や発酵した食べものなどの摂取が影響していると指摘されている。また、日本人が多く食べる魚の中にも心臓病(虚血性心疾患)のリスクが減る因子が含まれていることが判っている。
ちょいコレのすすめ:血清総ゴレステロールの値が、240-260mg/dlと正常値を少しだけ超えるくらい、体格もちょっと小太りくらい(BMI25)の方が長生きしているとのデータが出ている。どんなに野菜が良いからと言って、菜食主義を厳格に守る人はむしろ病気に弱く、時々お肉を食べる「だらしないベジタリアン」くらいの方が体に良い。
血管(動脈)をきれいにするホルモンとして「アディポネクチン」が知られている。このアディポネクチンの分泌を促進するとされている「生姜、唐辛子、葱、わさび」などを食べることで、心筋梗塞や脳血管性痴呆をきたす原因となる動脈硬化の予防につながる。
命を守る3つのシステム
1)自律神経(交感神経と副交感神経)について:現在は、交感神経が過緊張のストレス社会であるため、病気になりやすい。副交感神経を刺激する音楽を聴いたり、ぬるめのお風呂に入ったりすることで、心がゆったりするだけでなく、血管を拡張させ、血圧を下げ、リンパ球や免疫細胞を増やし、生きていくための抵抗力を強くしてくれる。ここで、日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)が作成した、がんばらないレーベル「ひまわり」のCDが会場に流され、聴衆の副交感神経を刺激した。
2)免疫システム:余命3ケ月の宣告を受けた進行癌の42歳の女性の例から、希望を持つことで、免疫システムが強化され、ナチュラルキラー(NK)細胞の活性が高まることで癌の進行を抑制し延命につながったことを紹介した。
3)ホルモン(脳内伝達物質)について:おいしい食べ物やきれいな夕日などの風景に感動すると、幸せホルモンである「セロトニン」が分泌される。赤身の魚やチーズ、肉に含まれる必須アミノ酸であるトリプトファンを摂取することでもセロトニンの分泌が高まる。 「オキシトシン」は、炎症を抑え、ストレスを緩和し、生きる力となるとなるホルモンと言われている。例えば、赤ちゃんがおっぱいを吸う時に、お母さんの脳内ではオキシトシンが分泌されている。スキンシップや相手の身になって考えることでも分泌され、愛情ホルモンとも呼ばれる。
チェルノブイリ、フクシマについて
最後に、6,800人の子供が甲状腺癌になったチェルノブイリの事故から、どのように福島の被災者への支援活動につなげるべきかについて語った。
頸部超音波検査の検診が始まり、福島の約21万人の子供が受けたが、既に18人の甲状腺癌が発見され、25人が疑いありとされている。それまで若年者の甲状腺癌は100万人に1-2人程度の頻度とされていたので、予想を超える数になっている。福島県の甲状腺専門医は、チェルノブイリでは事故後4年経って甲状腺癌が増加してきたので、検診は急ぐ必要はないと言っていた。あまりにも県民の不安が強いので始まったが、チェルノブイリのデータは、今回の福島のように当初から甲状腺の専門医が入って綿密に調査したものではないので参考になるか疑問である。
内部被ばくの検査では、今年になって測定限界以上の値が出た例はないが、短期間で結論を出さず、本当に大丈夫かどうか今後も注視し続けることが大切で、福島の子ども達の甲状腺検診は継続すべきである。
今回の講演を受けて
「性格はさっぱり、食べ物はネバネバしたものを」は、判り易く、また聴衆の笑いを誘った。また、いかなる困難な時でも「希望を持つこと」の大切さ、生きる力や勇気が「いのち」を生み出す話は説得力があった。東京でのオリンピックが決まったとはいえ、福島の問題は別で、福島の甲状腺癌の子供の数が集計されるたびに増加しているのが、これが綿密に検査して拾い上げたことによるバイアスだけだと現時点で断定することはできない。
氏の言葉は科学的根拠に基づいて、自らの実践を通して築き上げられた事実から出発しており、周囲の人々を運動に巻き込み、広がりの輪を作ってきた。そういった生き方こそが「健康で長生きの秘訣」ではないかと思われた。
(文責 / 流山市医師会担当理事 川村 光夫)