流山市医師会について

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公開講座・講演会

【流山市医師会 市民公開講座】

2010.11.14

健康食品、サプリメントの効果と安全性について

日本医師会常任理事(国民生活安全対策担当) 石川 広己 先生

はじめに

健康食品にかかわる問題の事例を紹介します。

まず始めに、α-リポ酸を含む「健康食品」についてです。厚生労働省の研究班による全国調査で、「自発性低血糖症」を発症した患者187名中、19名が「健康食品」を摂取しており、そのうち16名がα-リポ酸を摂取していることが判明しました。α-リポ酸を含む健康食品を摂取していて、冷や汗や手足の震えといった症状が現れた場合には、すみやかに摂取を中止する必要があります。日本医師会からも、各都道府県医師会を通じて、医師会員(=全国の病院、診療所)に伝達しております。

次に、スクラブなどの洗顔料(火山灰など)についてです。2010年8月、厚生労働省から、スクラブ剤、泥や火山灰などの不溶性成分を含む石けん類などの注意喚起がなされました。石けんなどに含まれる不溶性成分が、異物として、眼に入る可能性があること、さらに眼表面を傷つけるおそれがあることが指摘されたためで、独立行政法人「国民生活センター」によれば、2005年度以降、火山灰由来の原材料が配合された洗顔料を使用していて、眼に異物が入ったという事例が10件あり、そのうち9件は通院治療が必要になったとのことです。日本医師会からも、各都道府県医師会を通じて、全国の病院、診療所の医師会員にこのことを伝達しました。

本日のテーマは、以下の項目についてお話をします。1)健康食品、サプリメントとは?、2)健康食品の利用状況、3)医療提供者の立場から見た問題点、4)患者さん、市民の方々へのお願い~健康食品、サプリメントとのつきあい方、5)具体的な被害例、想定される問題例、6)日本医師会の取組み などです

1. 健康食品、サプリメントとは?

「食」とは、健康な生活にとって、もっとも基本的なものです。いわゆる「健康食品」、サプリメントとは、健康の保持・増進、美容、生活改善、場合によっては、病気の予防や治療を目的として、特別の期待をかけて摂取するものです。メーカー、販売業者も、その目的に応じるために、健康食品の製造・販売をし、宣伝などを行っています。

「健康食品」は、法律上は、規定なく、一般的には、通常の食品よりも、「健康によい」「健康に効果がある」、「健康の保持増進に役立つ」などの表現で、販売されているものです。

サプリメントは、「健康食品」の1つで、ある成分が濃縮されて、錠剤やカプセルなど通常の食品とは違う形をして作られた製品です。ただし日本では、スナック菓子や飲料まで、サプリメントと呼ばれることもあります。

【注意しなければならない点】

  1. 健康食品やサプリメントが、ふつうの食品よりも本当に、「健康によい」、「健康に効果がある」、「健康の保持増進に役立つ」かどうか、科学的根拠が十分にあるかどうかは、必ずしも十分ではないことです。
  2. 健康食品は、くすりの代わりではなく、健康食品と医薬品は、全く別な物です。
  3. そもそも、食品では、特定保健用食品(トクホ)などを除いて、医薬品のように、病気を"予防する"、"治療する"、"軽減する"というような広告、宣伝は、法律上認められていません。そこで、宣伝のチラシには、あくまで誰々の体験談としてすごく効いた云々と載っていることが多いのです。
  4. ひとつの健康食品に、たくさんの成分が含まれている例が多く、広告や表示とはまったく異なる成分が含まれていることもあります。さらに、製剤の過程でいろいろな添加物や、不純物が含まれているおそれもあります。
  5. 同じ成分でも、メーカーによって、成分の量や純度はまちまちで、たとえば、「コエンザイムQ10が入っている!」と広告しているのに、実際には、僅かしか含まれていない場合もあります。その場合は、高いお金を払って飲んでも健康には全く意味がないかもしれないことになります。また、さまざまな添加物が混入されています。
  6. 「食品だから安心」、「天然成分だから安全」は、全くの誤解です。天然成分由来の健康食品でも、アレルギー症状や、医薬品との相互作用を起こすものがあることはよく知られています。とくに、病人、子ども、妊産婦、高齢者、アレルギー体質のある方などは、注意が必要です。

【食品と医薬品の大まかな分類】

国が法律で規定している保健機能食品には、特定保健用食品(トクホ)とビタミンやミネラルなどの栄養機能食品の二種類があります【図1】。その他の食品が一般食品で、その中にいわゆる「健康食品」やサプリメントが含まれます。トクホは、基本的には、国(消費者疔)の審査を受け、許可をもらって作られるものです。2010年9月30日現在で960品目が許可されていますが、トクホは、あくまでも食品であり、病気が治ることを期待できるほどの作用はありません。また、国が食べるよう積極的に推奨しているものでもありません。

何万種類もある健康食品の中から何かを選ぶとしたら、有効性や安全性が確認されているので、トクホを選ぶのが無難という程度のものです。トクホは、あくまで生活習慣を改善する一つの「動機付け」として、利用することが望ましいといえます。

【健康食品と医薬品との違い】

医薬品は、厳しい基準の下で製造販売され品質が保証されており、ヒトへの安全性、有効性の試験も実施されており科学的な根拠があり、医師薬剤師より管理されています、一方、健康食品の場合は、「同じ名称」でも全く品質が異なる場合があり、科学的根拠はあっても試験管や動物実験レベルに止まります。安全性の試験があったとしても対象は病者でなく健常者に限られます。管理も食品の一つであることから、買うかどうかは消費者の裁量にまかされています。そこで、健康食品に関する虚偽・誇大広告等には、消費者庁や厚生労働省の地方出先機関、都道府県が監視指導を実施しています。

(注)健康食品の虚偽、誇大広告摘発例

「がん治るとウソ」健康食品会社に業務停止命令:2010年12月18日付け朝日新聞、消費者疔が特定商取引法違反(不実告知)でA健康食品会社に3ヶ月の業務停止を命令した。A社はキノコのヤマブシタケを使った製品でがんや認知症の予防や改善に効能があるとウソの宣伝をしていた。顧客は高齢者が中心で20~40万円をまとめ買いさせていた。2007年以降の同社の売上げは12億円余に上るという。

2. 健康食品の利用状況

消費者庁の資料によれば、2008年の健康食品市場は、トクホを除いて、1兆3500億円にも上り、トクホに関しては、2009年で5,500億円といわれています【図2】。これは、成長産業と見込んで大手ビールメーカーがこの市場に参入してきているためです。健康食品に関する情報源、入手経路は、広告、家族や友人・知人からの情報やテレビ・新聞などが情報源になっているほか、店頭購入、通販やインターネットも利用して、購入されています。

利用の目的は、健康の維持、栄養成分の補給、疲労回復、ダイエット、病気の予防ですが、時に、病気の治療目的に利用している問題な例も見受けられます。健康食品に、「医薬品に該当する成分を配合したり、医薬品と紛らわしい効能などの広告を行うこと」は、薬事法で禁止されています。

違法とされた製品の88%が医薬品成分の混入でした。そのうち、11.8%で、健康被害が発生しており、大部分が個人輸入の例でした(追加発言の項の中国製ダイエット茶による肝障害例はこれにあたります)。違法製品に表示されていた主な効果・効能は、「強壮・強精」、「肥満抑制」、「血糖」、「関節やリウマチ」などで、注意が必要です。

【子どものサプリメント利用】

国内の幼稚園・保育所に通う幼児の保護者(回答者数1,533名)を対象に実施した国立健康、栄養研究所の調査では、幼児の15%がサプリメントを利用していました。アメリカでは、30-50%の子どもがサプリメントを利用しているとの報告あり。幼児におけるサプリメントの利用実態をみると、健康食品やサプリメントの利用は、高校生、小学生から、幼児にも拡大しています。「子どもでも利用できる」とうたった健康食品や、「子ども用」というサプリメントが販売されています。

しかし、そのほとんどの製品が、国が安全性・有効性を科学的に評価した保健機能食品ではないため、これらの製品が子どもにとって安全で、必要なものなのか、きちんと科学的な根拠があるのか、確認できていないことが問題です。

アメリカで指摘された問題点としては、食事の栄養摂取量とは関係なく、サプリメントを利用しており、そのため、サプリメントの利用が、過剰摂取につながっている可能性があります。また、早い時期からのサプリメント利用が、アレルギー発症と関連するかもしれないとも言われています。ハーブに関して、「自然だから安全」という誤解があり、副作用や相互作用については、あまり知られておらず、安全性が問題視されているハーブや、有効性が承認されていない用途での使用がみられています。

毎日、3度の食事と適切な間食をきちんと摂っていれば、ほとんどの子どもには特別なサプリメントは必要ないと考えられ、どんなに体に必要な成分でも、過剰に摂れば有害な作用が出る可能性があり、注意が必要です。特に、小さな子どもは大人の様に体が出来上がっていないので、有害な影響を受けやすいと考えられています。注意したいことは、子供で安全性を評価したサプリメントはほとんどないのが現状だということです。

3. 医療提供者の立場から見た健康食品の問題点

【 1.副作用、アレルギーなどの発生 】

健康食品やサプリメントは、健康の保持・増進などに効果のある成分を、濃縮したものですので、副作用が出やすい可能性があります。さらに、医薬品に用いられている成分を含んでいるケースもあります。なお、医薬品にしか認められていない成分を含むことは、法律(薬事法)違反です。

【 2.医薬品との相互作用 】

患者さんが医薬品を服用している時に、健康食品やサプリメントを食べると、お互いに反応し合って、思わぬ作用が起きるおそれがあります。たとえば、ビタミンKを含む健康食品は、ワルファリンという医薬品の効果を弱めるおそれがあります。

【 3.医師の健康食品に関する情報不足 】

医薬品には、副作用情報が、すぐに全国の医師に伝えられるしくみがありますが、健康食品にはそれが無いことです。医師も、医薬品とは違い、健康食品やサプリメントの内容、安全性、有効性などの情報が豊富とは限りません。

【 4.医師が、患者さんが健康食品を食べていることを把握していない 】

患者さんが、自分が健康食品やサプリメントを食べていることを、医師に伝えていないケースも多く、医師が、健康食品を食べていることを知らされないでいると、病気の原因究明の遅れや、処方した医薬品と健康食品との相互作用など、思わぬ問題が起きた例もあります。

【 5.健康食品やサプリメントの食べすぎ 】

一度に、さまざまな健康食品やサプリメントを、大量に食べることは、危険です。健康食品やサプリメントは、効き目を強くするため、成分を濃縮している場合が多く、食べすぎは、栄養分の取りすぎになり、体に強いショックを与えるおそれがあります。また、健康食品同士が、お互いに反応しあって、思わぬ作用が起きる危険もあります。

【 6.医薬品のような過度な期待 】

健康食品やサプリメントは、医薬品ではありません。あくまでも、食品です。お薬の替わりにはなりません。医薬品は、科学的な根拠に基づいて開発され、専門家に審査され、きびしい基準で製造され、さらに医師や薬剤師や国による安全な体制がつくられています。患者さんが、「健康食品やサプリメント(だけ)で、病気を治そう」とした場合、医師による治療のチャンスを失い、結果として症状を悪化させるおそれがあります。

【 7.過大な宣伝 】

健康食品やサプリメントの宣伝には、過剰なものも見られ、患者さんが、健康食品の宣伝を信じた場合は、適切な時期に、医師の診療を受けるチャンスを逸失するおそれがあります。「病気を診断する、予防する、治療する、軽くする」など、医薬品のような宣伝は、薬事法で禁止されており、アメリカでも、同様の規制がなされています。

4. 患者さん、市民の方々へのお願い

~ 健康食品、サプリメントとのつきあい方 ~

【 1.かかりつけ医をもつこと 】

体調を崩すなど、なにかあったらすぐに、かかりつけ医に相談することです。医師には、健康食品を摂っていることを伝えることが大事です。伝えてくれないと、医薬品との相互作用が起きたり、病気の原因究明が遅れたりするおそれもあります。健康食品の箱や説明書きなども持参すると良いでしょう。

【 2.疑いの目 】

まず、疑いの目も持つことです。「食品だから安心」、「天然成分だから安心」とは限りません。健康食品には、有害な成分が含まれていることもあります。その人の体質などによっては、逆に、健康を害することもあるのです(追加発言、呼吸器領域の項で、アマメシバによる具体例を呈示しています)。

【 3.一度に大量摂取したり、たくさん摂取しない 】

健康食品は有効成分を濃縮したもので、大量に摂取すれば、逆に、健康被害になるおそれもあります。多くの健康食品を一度に摂取したときは、成分同士が相互に作用して、思わぬ健康被害になることもありえます。

【 4.体験談や専門家の話に惑わされない 】

体験談は、あくまでその人の個人的なものにすぎません。アレルギー体質など、個々人で、効果や副作用も違ってきます。そもそも、その体験談は本当かどうか怪しいものもあります(作文、捏造の可能性もあります)。大学教授などの専門家の話にも、偏りがあります。メーカーからの利益提供を受けていないか注意が必要です。

学会発表も、予備的な段階のものにすぎません。第三者により内容をチェックされ、雑誌に掲載を許可された場合のみ評価できます。ただし、それだけでは不十分で、他の研究者が多数の被験者を対象に同様の研究を行い、その結果同じような結論が導き出され、複数の論文になって初めて評価が確立されたといえます。

【 5.インターネットの利用について 】

インターネットには、膨大な情報がありますが、そうした情報が、すべて客観的、科学的なものとは限りません(玉石混交)。検索しやすい情報の多くは、健康食品の業者から提供されたものかもしれません。業者の提供する情報は、目的が消費者に買ってもらうためのものであり、有効性の根拠が主観的で、情報の出どころが明らかではありません。

【 6.健康食品、サプリメントは、あくまでも補助的なもの 】

食生活は、主食、主菜、副菜を基本に食事のバランスが大切です。「トクホ」にも、その注意書きが書かれています。健康的な食生活の基本は、さまざまな栄養素を含んだ食品をバランスよく摂ることです。

(追記)一般の方に参考になるサイト例

「健康食品」の安全性・有効性情報 (独立行政法人国立健康・栄養研究所)… 健康食品の基礎的な情報、各成分の有効性、安全性の情報など

健康食品ナビ(東京都庁)… 健康食品データベース、健康食品に関する制度など

5. 具体的な被害例、想定される問題例

本日配布のパンフレット「健康食品による健康被害の未然防止と拡大防止に向けて」(厚生労働省、日本医師会、国立健康、栄養研究所発行)に詳しく掲載されていますが、その幾つかを列挙します。

  1. 健康食品関連の製品による主な有害事例
    クロレラ(顔、手の皮膚炎)、ゲルマニウム(腎障害、死亡例あり)、タピオカ入りココナツミルク(下痢)など。
  2. 健康食品に添加されている天然植物と、医薬品との相互作用が想定される主な事例
    イチョウ葉エキス(抗血小板薬、薬効の増強)、ノコギリヤシ(抗血小板薬、薬効の増強)、朝鮮ニンジン(ワルファリン、薬効の増強)など。
  3. 健康食品に添加されている成分と、医薬品との相互作用が想定される主な事例
    ビタミンB6(フェニトインの薬効減弱)、ビタミンC(アセタゾラミド、腎、尿路結石のおそれ)、マグネシウム(カルシウム拮抗薬の薬効減弱)など。
  4. 健康食品素材と、注意すべき利用対象者の組み合わせ
    ウコン(胆石などの病状悪化)、アロエ(妊婦の子宮収縮を促進)、α-リボ核酸(インスリン自己免疫症候群患者での低血糖発作)など。

6. 日本医師会の取り組み

日本医師会としては、以下のような取り組みを行っております。

【 1.「健康食品安全情報システム」事業(予定)】

全国の診療現場から健康食品による被害の情報を集め、資料を作成して、診療現場にフィードバックするものです。2006年より17都道県の参加を得てモデル事業が開始され、2010年度より全国、すべての医師会員に対象を広げるべく、現在、準備中です。この事業に参加している医師会員は、患者の診察から健康被害を発見した時に、情報提供票に記入して、都道府県医師会を通して情報提供するシステムです。

「健康被害」(疑いの場合を含む)の定義は、患者の症状が、健康食品と何らかの関連がある、患者の服用している医薬品と、健康食品との間に、相互作用がある、宣伝文句を過信した患者が、その健康食品に依存してしまい、治療を中断してしまったなどです。この事業を通して、健康食品による健康被害には様々な課題があることを認識され、健康被害をもたらす成分や、健康食品とのつきあい方について、国民や医師への啓発を行い、被害の発生防止を行うことが重要であるとわかりました。

日本医師会から医師会員へ情報提供するものとしては、会員が、受診した患者に説明する際に役立つものとして、健康食品の安全性と有害性、医薬品との相互作用、過剰摂取や、多くの種類の健康食品を摂取する危険、過剰な宣伝により健康食品に依存することが診療を受けるチャンスを失うことになりかねないことなどがあります。

【 2.全国の医師会員に向け、健康食品のデータベースの提供 】

ナチュラル・メディシン・データベースWEB版です。日本医師会員が、容易に、健康食品の成分や被害事例に関する解説にアクセスできる環境づくりとして、健康食品のデータベース(WEB版)を提供しています。世界最大級の健康食品データベースで、健康食品の有効性・安全性・医薬品との相互作用(飲みあわせ)などを網羅しています。アメリカのFDA(食品医薬品局)やNIH(国立衛生研究所)をはじめ、欧米各国などの国家行政機関も公式採用され、日本でも、国立健康・栄養研究所で利用されています。

追加発言

【 司会者より補足 / 流山市医師会 川村光夫 】

サプリメント全般について:カプセルや粉末など薬品に似せて作られていますが、あくまで「食品」です(紛らわしいので2001年まで禁止されていましたが、外圧、業界からの要望で解禁に)。アガリクス、プロポリス、サメ軟骨では、がんの効くかの如くの宣伝がされていますが、客観的な大規模試験で効果があったとのデータは全くありません(国立健康栄養研究所のデータベースを参照)。

健康被害として、2002年の中国製ダイエット食品(実は医薬品である食欲抑制剤が含有されていた違法なもの)を個人輸入し、肝障害にて死亡した例や、2001年に主婦の友社が発行した雑誌「健康」の特集記事を読んで服用したアマメシバによる閉塞性気管支炎のため呼吸困難になった例を紹介しました。

さらに、テレビ、新聞の広告については、新聞広告はそれを掲載している新聞社がその中身について保証しているものではなく、単に広告収入としか扱っていないこと、テレビ番組についても、2007年にフジテレビ系列の関西TVの番組「発掘あるある大事典」について実験データの偽造が発覚し、番組が打ち切りになったことはまだ記憶に新しいことです。また、その番組のスポンサーが「発がん性」の問題でトクホの自主返上に追い込まれた「エコナクッキングオイル」の発売元の花王であったことなど、杜撰なテレビの健康番組の実態、裏側を指摘しました。

【 整形外科領域について 】

1)ヒアルロン酸

Nアセチルグルコサミンとグルクロン酸が連結したもので、分子量100万以上の多糖類で、粘性が高く、動物の結合組織の成分である。医薬品として認可されているのは、関節内注射薬(アルツ、科研製薬)や点眼薬、眼科手術補助剤であり、口から摂るものについては認められているものはありません。これは、経口摂取されてもどのくらい吸収されて、どのように代謝されるかの基礎的なデータがないこと、有効性についても信頼できるデータがないことによるものです。

実際に、キューピーが販売している「ヒアロモイスチャーS」は、美肌効果をうたった商品で、2003年に特定保健用食品(トクホ)の申請をしましたが、2008年11月不許可になりました。その理由は、体内動態が不明、効果も認めず、口から摂取したヒアルロン酸が吸収されて皮膚まで届くことが証明できなかったことによります。それでは、いま有名芸能人を使って盛んにTVで広告されている「○○」はどうかというと、「美肌効果」、「関節痛を和らげる」とは言わずに「人生を生き生きに」など巧みな宣伝文句を使用しています。また、多くの健康食品のTV広告には体験者の感想を述べる場面では、必ず「個人の感想です」のテロップが画面の片隅に小さな文字で入っていますが、これは法律違反を逃れるためのグレーな手法といえます。

2)グルコサミン、コンドロイチン

医薬品として認可されている製剤あり、コンドロイチンZS錠(ゼリア新薬工業)などがあります。但し、医療用医薬品ではなく、処方箋がなくても薬局で購入できる一般用医薬品(大衆薬、家庭用医薬品)の範疇になります。

グルコサミンとコンドロイチン硫酸について、アメリカで、NIH(国立衛生研究所)が主体となり、メーカーが一切関与しない公正な立場で大規模試験が行われました。変形性関節症の患者1500人以上参加して、服用開始24週間の痛みの緩和程度を偽薬との比較で検討した結果、偽薬との明らかな効果の差は認められませんでした。

また、独立行政法人「国民生活センター」(消費者疔が所管)の調査によると、グルコサミンとコンドロイチン硫酸が含まれている国内の健康食品を調べたところ、胃の中で溶けにくいものや、原材料の表示量と含有量に差があるものがあったことが指摘されています。

3)まとめ

医薬品として認可されているものは、信頼に値するものの、飲むヒアルロン酸の有効性に関する信頼できるデータは認められていません。医薬品と健康食品では、含まれる成分の品質(純度)、量が全く異なっており、健康食品の中には、胃の中で溶けにくいものや、原材料の表示量と含有量に差があるものもあります。

【 呼吸器領域から 】

アマメシバの健康被害 / 東葛病院呼吸器科 松永伸一先生

2001年9月に主婦の友社が発行した雑誌「健康」の特集記事に、生活習慣病を防ぐ特効野菜としてアマメシバが紹介され、17kgのダイエットに成功、血圧、血糖値も下がったなどと書かれていたことから注文して服用した40代女性が閉塞性気管支炎のため呼吸困難になった例を紹介しました。この女性は、2002年4月よりアマメシバを服用し、2003年2月より労作時呼吸困難が出現し、その2か月後某大学病院に入院。閉塞性気管支炎と診断され、2004年3月には部分肺移植まで受けられました。

アマメシバとは、東南アジアの熱帯雨林に生える常緑低木で、葉や茎の部分を炒めたり、スープの具としてふつうに食べられているものです。しかし、健康食品として製品化されると、乾燥、抽出する過程で濃縮され、添加物が加えられ、結果的に大量に摂取されてしまった可能性があります。

1994年に台湾では、ジュースとして服用されたことで、約300人の患者が発生し、9人が死亡、8人が肺移植術を受けるといった大規模な被害事例があって、アマメシバの栽培、輸入が禁止されていました。そのことは、1996年Lancet誌に報告されていましたが、その教訓は生かされず、日本でも同じような事件が発生してしまったわけです。

その後、日本でも直ちに販売は禁止されましたが、医薬品ではなく食品のために公的救済が受けられないことから、被害者側から販売メーカーと出版社、特集記事の中でアマメシバを勧めた専門家(医学博士)を「バイブル商法」としてその責任を問う訴訟が起こされました。出版社側と専門家は一審で敗訴し、二審でも「記事の表現に起因して重篤な健康被害を受けた」と明記され、和解金600万円にて決着しました。販売メーカーにもPL法に基づく責任が認められました。しかし、アマメシバにより引き起こされた肺障害が元の健康な状態に戻ったわけではありません。

(注)「バイブル商法」とは

体験談の形で書籍を出版することで薬事法の規制を逃れ、健康食品などの効用を宣伝する商法のこと。業者は、権威ある専門家が本(雑誌)まで出版して、この製品の効用について保証しているので安心して購入してくださいと消費者に勧める。本(雑誌)と製品はあらかじめセットになっている。

< 追加資料、参考文献 >

  1. 「がんの補完代替治療、健康食品の効果、乏しい根拠」
    2010年9月21日付け朝日新聞、がん患者の半数近くが健康食品を利用、がんに効く、免疫力が上がるなどの体験談があふれているが、科学的効果はほとんど確認されていない。アガリスクに関しては、2006年厚労省は、動物実験で「がんの発生を促進する作用」が認められたと発表している。
  2. 「健康食品ウソ?ホント?健康食品を安全に利用するためのポイント」
    東京都福祉保健局健康安全室健康安全課、平成18年12月作成、解説DVDの貸し出しもあり。
  3. 「健康食品による健康被害の未然防止と拡大防止に向けて」
    厚生労働省、日本医師会、国立健康、栄養研究所発行のパンフレット
  4. 「サプリメント、健康食品の効き目と安全性」 田中平三監修代表、同文書院
  5. 「いわゆる健康食品、サプリメントによる健康被害症例集」
    日本医師会監修、小澤 明総編、田中平三他編、同文書院
  6. 大中原研一、他:「アマメシバ」摂取によると思われる閉塞性細気管炎の本邦での発生、台湾での惨事を繰り返さないための緊急報告.日本医事新報4141:27-30,2003.
  7. Lai RS, et al:Outbreak of bronchiolitis obliterans associated with consumption of Sauropus androgynus in Taiwan. Lancet 348:83-85,1996.

※ 以上は、2010年11月14日に、流山市市民文化会館大ホールにて開かれた流山市医師会市民公開講座の講演内容の要旨に加筆、訂正を加えたものです。(文責 / 流山市医師会担当理事 川村 光夫)

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