医療の現場から

Vol.13 ピロリ菌と胃・十二指腸潰瘍

空腹時や食後に上腹部がきりきりと痛み、胃潰瘍や十二指腸潰瘍に悩んでいる方はたくさんいらっしゃると思います。つい最近まで、ストレスや生活習慣(アルコール多飲や喫煙等)が、この潰瘍を引き起こす主な原因と考えられていました。しかし、昨年のノーベル生理医学賞受賞者となったオーストラリアのマーシャルとウォレン両博士は、1982年らせん状で数本のしっぽを持った細菌(ヘリコバクター・ピロリ菌)が胃の粘膜に存在する事を発見しました。そしてピロリ菌が胃潰瘍や十二指腸潰瘍の発生や再発に関与することを突き止めました。また最近では、胃がんとの関連も注目されてきています。

ピロリ菌は主に乳幼児期に口より感染するとされています。最近の日本人の30歳以下の感染率が0~20%と欧米並みであるのに比し、飲み水などの衛生環境の悪い戦後の時代に育った50歳以上では60~70%と高い感染率となっています。さらに、胃・十二指腸潰瘍患者では90%以上と高率にピロリ菌に感染している事が分かっています。感染の有無を調べる方法としては、血液や尿のピロリ菌抗体を検出する方法、ピロリ菌による分解物質を呼気中で検出する方法、胃の内視鏡検査時の生検組織よりピロリ菌を確認する方法などがあり、医院や病院で比較的簡単に検査できるようになりました。

ピロリ菌を除菌治療するには、胃酸分泌抑制剤と2種類の抗生剤を1週間服薬することにより、約70~90%の保菌者で除菌ができるようになりました。しかし、この除菌治療にも抗生剤のアレルギー、出血性大腸炎、除菌後の逆流性食道炎などの副作用が時に出現することがあり、注意が必要となります。

いずれにしても、胃痛などの胃部症状が長く続く場合は、一度かかりつけ医あるいは消化器専門医を受診し、内視鏡検査やピロリ菌検査を受けられる事をお勧めします。もしピロリ菌に感染していた場合は、除菌治療を受けた方が良いかどうかを判断してもらうのが良いでしょう。

(文 / 西村正信)

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