医学コラム

発ガン物質

1) 七面鳥X(エックス)事件

1960年、イギリスで10万羽もの七面鳥が肝臓ガンで急死してしまうという事件が発生しました。これは七面鳥X事件と呼ばれ、調査された結果、飼料のピ―ナッツに「アスペルギルス・フラブス」という麹カビが繁殖して、アフラトキシンBという猛烈な発ガン物質を産生していたことが分かりました。

ネズミの実験で、アフラトキシンBを餌に15ppb(10億分の15)まぜただけで、100%肝臓ガンになるという恐ろしい結果がでました。アフラトキシンBの構造は、遺伝子の構成物質と大変よく似ているため、遺伝情報の中にアフラトキシンBが入り込んで正しい情報を変えてしまい、細胞がガン化してしまうことが分かっています。

2) 「われわれは、発ガン物質の海の中を泳いでいる」

われわれは、発ガン物質の海の中を泳いでいる、と国立がんセンターの杉村隆総長は、言いました。私たちの身の回り、特に食物の中にはおびただしい発ガン物質が含まれていると考えられています。発ガン物質の中でも強力なものは、ピーナッツのカビなどに含まれているアフラトキシン、タバコの煙の中に含まれているベンツピレン、魚や肉の焼き焦げの中にふくまれているトリプP1、P2などです。また、私たちの腸内で作られるニトロソアミンも強力な発ガン物質です。ワラビの中の成分、ソテツに含まれているサイカシンなども有名です。食品だけではなく農薬、薬、工業材料などにも発ガン物質はたくさんあります。殺虫剤のDDT、農薬のBHCはあまりに有名です。ベトナム戦争で使用された枯葉剤も強力な発ガン物質です。工業材料のベンジン、塩ビモノマー、排気ガスにも含まれています。

こうした発ガン物質は、すでに発売や使用が禁止された物もあります。発ガン物質を調べる方法は、ねずみを使った実験が決め手になりますが、時間がかかるため、サルモレラ菌の突然変異の状態を調べて網に掛け怪しい物質から発ガン実験をおこないます。最近に突然変異を起こす物質は、発ガンの危険も大きいことがわかっています。

(文 / 中島 麒一郎 「中島内科医院」)

Vol.02 体内時計と日内リズム