医療の現場から

Vol.10 うつ病と叱咤激励

うつ病は、それこそ『なぜかは知らねど 心わびて』、気分が滅入りこみ、意欲が減退し、やたらに不安になる精神疾患です。きょうは、その「うつ病と励まし」について話をします。

励ましと言えば、傍にクヨクヨ、メソメソした人が居れば、励ましたくなるものです。しかし、実はうつ病の人に「頑張れ」、「しっかりしろ」などは禁物なのです。もともと、「さぼってやろう」とか、「怠けてやろう」なんて気持ちはさらさら無く、むしろ頑張りに頑張り、力も尽き果てた末に、うつ病になるのです。そんな人に「頑張れ」は、無理難題というものです。うつ病の人への励ましは、かえって負担になり、容易に自殺に追いやることにもなりかねません。

では、うつ病の周りの人は、腫物に触れるように遠巻きに見守るしかないのでしょうか。そうではありません。なすべきは、うつ病の人の愚痴を聞いてあげるということです。うつ病の人は、10年も20年も昔のことを後悔し自分を責めつけたり、傍からすると何でもないことを心配し、不安におびえたりすることがあります。そんな時、徹底的に話の聞き役に回って、耳を傾けてあげてください。「そんな話は聞きたくない」とか、「その話は聞いた、聞いた」とか説教がましいことや、意地の悪いことは決して言わずに、何度でも聞いてあげるのです。なぜかと言えば、人は愚痴ることによって、心の煙突掃除をするのです。だから、愚痴を聞いてあげるということは、うつ病に対する立派な治療行為なのです。それも素人ができる、最も効果的な治療なのです。

(文 / 奥村精)

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