流山市医師会について

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公開講座・講演会

【流山市医師会 市民公開講座】

2012.09.23

生きづらい世の中を幸せに生きるために ~精神科医からの提言~

立教大学現代心理学部教授 香山 リカ 先生


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流山市医師会が主催して始められた市民公開講座は、流山市の協力もあり、一昨年は「健康食品とサプリメントの問題」を取り上げて行われた。
昨年は、当地が福島原発による放射能汚染の首都圏におけるホットスポットになったことから、「福島原発事故と放射線被ばくについて、放射線からどう身を守るか」と題して行なわれ、市民の関心も非常に高く、会場内では多数の質問が寄せられ、演者からの丁寧な回答もあり、盛況の裡に終えることができた。

3回目となる今回は、長い不況が続き、加えて昨年の東日本大震災、福島原発事故と暗いニュースが重なる中、精神科医としての臨床経験を生かして、“現代人の心の病”について洞察を続けている立教大学現代心理学部の教授でもある香山リカ先生を迎えて「生きづらい世の中を幸せに生きるために~精神科医からの提言~」と題して、平成24年9月23日(日)に流山市文化会館にて開催された。

香山先生は、1960年、北海道札幌市の生まれで、東京医科大学を卒業後、精神科医として臨床に携わるほか、社会批評、文化批評の場でも積極的に活躍している。いくつか紹介すると、NHKラジオ番組の「こころの美容液」、毎日新聞のコラム「ココロの万華鏡」、著書も「母親はなぜ生きづらいか」など多数ある。

講演会当日は、予想を超える大雨に見舞われたにもかかわらず、駐車場は満杯となり、400人を超える参加者があった。また、千葉県障害者協会による手話通訳と要約筆記も併せて行われた。

講演が始まる前に、主催者である流山市医師会の大津会長と井崎流山市長から開会の挨拶があった。
大津会長は、香山氏が大学で学生に対して「ナチはユダヤ人だけでなく同じドイツ人である精神障害者や身体障害者にも虐殺を行った」(詳しくは、月刊保団連8月号(No.1102) 4-9頁に掲載)ことを教えていることを紹介し、非効率のものを社会に取り込む寛容さが人間のあるべき社会であると強調した。
井崎市長は、流山市がWHOの健康都市宣言を行い、健康をキーワードに都市づくりを進めていること、そして精神の健康に十分な関心を払っていることを示した。
続いて講演に入った。講演要旨は以下の如くである。

講演内容

香山氏は、自分が医師になった1980年代と現代を比べて、精神科医療にもさまざまな変化があり、嬉しい変化として、精神科という医療が一般の人にも大分受け入れられて、理解を得られるようになったことなどから語り始めた。
以前は、自分が精神科医であると名乗ると相手が驚いてさっと立ち去ることなどもあり、「精神科」という言葉は、口にするのもはばかるような一種のタブーとなっていたことに精神科医になって初めて気づかされたことなども紹介した。

昨年、厚労省は従来の四大疾患である心臓病、がん、脳卒中、糖尿病に「うつ病」を加えて五大疾患と認定し、うつ病に対し国として本格的に取り組む姿勢を打ち出した。
一日中気分が晴れないとか(憂鬱な気分)、今まで好きだったことがそうではなくなった(意欲の減退)ことなどがあればうつ病の可能性がある。
精神科も以前と比べて受診しやすくなり、最近では、「昨日テレビで、不眠はうつ病の始まりであると言っていたので、来ました」といって受診してきた患者もいるくらいになった。

どういう人がうつ病になるのか?というと、かつては働きすぎの中年男性、いわゆる「モ-レツ社員」が、仕事上のストレスが原因でうつになることが多かったが、今は、若い就職難の学生さんから、子育てに悩む若い母親や中高年の男女まで、誰でもうつ病になる時代となった。

どうしてこうなってしまったのか?
その原因の一つには、企業の終身雇用制が崩壊し、成果主義が導入されたことにより、社会人にまで点数が付けられ、少しの失敗でも厳しく評価されるようになったことから、自分はダメな人間だと思ってしまい、自信喪失、自己否定に陥りやすくなったこと。また、「オレオレ詐欺」の横行が社会問題になるように、自分だけしか信じられず、他の人を疑ってかからざるを得ないような疑心暗鬼の世の中で暮らすようになった。
こういった気を許せない、気が抜けない毎日が、多大なストレスを老若男女、誰にでも与えて、うつ病予備軍を形成しているのではないか。

昔は、映画「3丁目に夕日」に代表されるようなほのぼのとした助け合いが当たり前の時代で、ストレスがあってもそれを打ち消すような夢や楽しみがあった。しかし、現代は頼れるのは自分だけ、防犯サービスなどにお金を使って自分の身を守る時代に変化してきた。
以前は、校長先生は子供たちに「道を聞かれたら親切に教えてあげなさい。もし時間があったら案内までしてあげなさい」と話していたが、今は誘拐などの犯罪の増加により「知らない人に道を聞かれたら、一目散に逃げなさい」と言わざるをえず、「人を疑う」ことから教えなくてはならなくなった。そこには笑い話では済まされない現実がある。

これから、社会全体が変わってお互いが信頼し合えるようになればよいが、それも容易なことではない。かといって昔の昭和30年代に戻るわけにはいかず、今後どうしたらよいのか。

一つは、不必要に厳しく自分を責めたり、否定したりすることはせずに、むしろ自分に対する自信を取り戻すことが必要ではないか。
自信満々になる必要はないが、それなりに、今の厳しい世の中で毎日を暮らしている自分を認めてはどうか。100点満点でなくても、65点ぐらいを合格点にしていいと思って、出来なかった35点をいつまでも反省して、くよくよしたりせず、今日もほどほど、まずはマルをつけてはよいのではないだろうか。

二つ目は、昨年の東北大震災でのボランティア活動にみるように、本質的に人間には困っている人を助けたいと言う気持は誰にでもある。他人に弱みを見せまいと思って頑張るのではなく、あまりにつらい時は人を頼り、逆に自分に余裕ができて困っている人がいたら助けてあげたらどうか。お互いを信用し合い、助け合うことをもう少ししてみてもよいのではないか。
誰かを頼るのは恥ではなく、次は自分が誰かを助けてあげて、お互いさまと考えれば、弱みを見せまいと意地を張っている状態から肩の力が抜けてほっとするのではないだろうか。

最後に、いざという時は、自分にも回復する底力が残っていることを信じてはどうだろうかと結んで、講演を終了した。

今回の講演を聞いて、人間社会で生きていく上で、基本的に誰もが大切にしたいことや、今忘れ去られつつある大事なものを改めて確認でき、これからは自然体で生きて行こうと感じた方も多かったのではと思われた。

(文責 / 流山市医師会担当理事 川村 光夫)

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